次世代農家をインタビュー
~未来を担う若手農業者たち~
坂戸市
髙橋 佑輔 さん(38歳)
農業未経験者のサラリーマンから
観光農園を目指す試み。
農業大学校で学んだ知識と
指導農家からの
教えを基に日々邁進し続ける
若手農業者
坂戸市で果樹栽培。
物珍しさに着目し、おいしいブドウを栽培
夏の暑さから解放された10月中旬、坂戸市の
坂戸市で果樹栽培…。なぜ、果樹を栽培しようと思ったのでしょうか…。
「親戚や近所の同級生が農園を営んでいて、同園のおいしいブドウを味わった瞬間、自分でもおいしいブドウを栽培したい!と強く決心しました。そして、坂戸市では多種多様な農産物が盛んに栽培されていますが、果樹を栽培することは珍しいのではないかと果樹栽培に着目しました」。
現在では約30アールの面積にブドウを栽培し、約15アールの面積にキウイを栽培。栽培を始めて3年目の今年、ようやく初狩りを迎えました。房先の糖度が18度まで上がり地元のお客さまに試食をしていただき、庭先販売も開始しました。「5、6年ほどかけてようやく成木になると言われていますが、今年の作柄に納得しています。来年には、JA坂戸農産物直売所などにも出荷し、より多くの方に坂戸市産のブドウを味わってもらいたいです」と意気込みます。
また、圃場の前を通る方からは、物珍しさに「ブドウだ~」「ブドウの季節だね」などと声を掛けてもらうことも。髙橋さんが狙っていた
農地を受け継ぎ守っていきたい
サラリーマンから農業の道へ
代々農家の家柄だった髙橋さんは、農業とは程遠い都内のサラリーマンとして勤めていました。2012年に農地を受け継いだ髙橋さんは「このままだと遊休農地になってしまう。どうにか活かしたい。自分の土地を有効活用できないか」と模索していました。祖父は、昔から池で淡水魚の養殖をしていたため、畑のほかに池も受け継ぐことになった髙橋さん。「今後、池ではなく畑にしたほうが良いのではないか」と考えました。当時28歳の頃、さまざまな理由から池を畑に転換し、2014年には地元生産者に貸すなどして7、8年間有効活用していました。
就農を決めた2019年4月には、日本農業大学校に通い露地野菜の栽培方法や肥料、農薬などの基礎知識を学んだほか、JA西部果樹部会に所属し、部会長からブドウの剪定や摘粒、販売のノウハウを学ぶなど、本格的に農業の道を歩み始めました。今では、坂戸市の「認定新規就農者」と「さかど自慢の逸品」に認定されているほか、スマート農業として自動灌水設備やロボット草刈り機、温湿管理システム、ネットワークカメラなどを積極的に導入しています。「やはり、ひとりで作業していると灌水や温湿管理、雑草の管理などをやりきることは困難です。経費はかかりますが、作業が断然楽になりその分芽かきなどの栽培管理に集中できます」と話します。
髙橋さんはほかにも、坂戸カントリーエレベーター(CE)から出たもみ殻を、果樹やサツマイモ、養蜂に使用するなど循環型農業にも取り組んでいます。サラリーマンから農業に転職した髙橋さんは、今でも農業を追求し熱心に勉強中です。
若い世代にも届くSNSを活用
笑顔溢れる「観光農園」目指して
試行錯誤して始めた果樹栽培。髙橋さんは、今後の意気込みをこう語ります。
「将来は、観光農園を営みたいです。若者をターゲットとしてブドウの栽培面積も拡大したい。ブドウ狩りはもちろん、サツマイモ掘り体験なども始め、家族連れやカップルなどの良い思い出づくりに貢献したいです。やはり、お客さまの笑顔が一番の励みですからね」。
髙橋さんは現在、リアルな情報を幅広い世代に届けたいという想いからSNS(公式LINEやインスタグラム、ブログ)を活用し、生育状況や販売状況などを更新中。最近は、予約サイトも開設しました。髙橋さんの笑顔がまたお客さまをも笑顔にし、三芳野フルーツファームは笑顔に包まれた観光農園と生まれ変わることでしょう。
狭山市
大野 博則 さん(38歳)
受け継ぐ想いと新たな挑戦。
こだわりの農業を営む
若手農業者
「自然が先生」
若手農業者の目指す野菜作りとは
狭山市の上奥富。木々も徐々に色づき始め、秋も一層深まり始める中、住宅地に囲まれた農地で黙々と作業に勤しんでいるのは、若手農業者の大野博則さん。地元出身の38歳です。現在は、約9ヘクタールの面積で彩のかがやきやミルキークイーンなどの水稲栽培やにんじん、ブロッコリー、ネギなどの季節野菜を栽培しています。
代々続く農家の家庭で育った大野さんは専門学校を卒業後、一度は地元を離れ、趣味の釣りが高じて釣り具店に就職しました。そんな大野さんに転機が訪れたのは27歳のとき。結婚と出産をきっかけに「父が精魂込めて作った水稲と路地を守り、生まれた子供に美味しい野菜を食べさせたい」という想いから就農を決意しました。
元々さまざまなものに対してアンテナを張るのが得意な大野さん。就農後も父の背中を見て農業を学びつつ、新たな取り組みをしたいという想いから「有機農業」を始めるために全国各地を回りました。「自然で生育している環境をいかに人工の畑で再現するか。良質な野菜ができるのは理由があるので、それを追求していくことは楽しいですね。まさに自然が先生です」と笑顔で話します。こうして作られたこだわりの有機野菜は、JAあぐれっしゅげんき村や量販店、市内の飲食店に出荷され人気を博しています。
きっかけは地元酒店から…
オール狭山の日本酒「 里平 」誕生
「狭山産の地酒を作るのに協力してくれないか」きっかけはその一言だったと大野さんは話します。依頼を持ち掛けたのは地元で酒店を営む田口博章さん。納めている飲食店を通じて大野さんのことを知り、「地域活性化につながるようなものを一緒に作りたい」という想いから、自身が代表を務める奥富村地酒会に勧誘しました。「地元にこだわるなら使う米も埼玉県産の品種にしたい」。大野さんや同会のメンバーらは同じ考えの下、様々な品種を試行錯誤したと言います。
そうした苦悩の末、2年の月日を掛けて純米酒「里平」が完成。大野さんが育てた「彩のかがやき」を地元在住の杜氏が仕込み、出来たお酒を市内の酒店と居酒屋で味わえる「オール狭山」の一品が誕生しました。
「里平は、『古里に平和が続くように』という想いから名付けられました。現在は、里平で使う米作りを地元の子供たちなどに体験してもらい、完成したお酒を家族にプレゼントするイベントも実施しています。こうした一つ一つの積み重ねが地域活性化に繋がれば良いですね」と大野さんは地元へ思いをはせています。
若手農業者が目指す今後の目標
地域活性化への活動や有機農業に精力的な大野さん。そんな大野さんに今後の目標を訊ねてみました。「今の目標は有機栽培で育てたにんじんで「栄養価コンテスト(※)」の入賞を目指すことですね。にんじんは味がストレートに伝わるのが魅力だと思っています。えぐみが少なく、栄養価の高いにんじんをいかにして作るか…。今は緑肥や自家製の米ぬかのぼかし肥料を使うなど試行錯誤の最中です。消費者が笑顔で健康になれる野菜作りを目指して、これからも精進していきたいと思います」。そう意気込む大野さんの目には確かな自信と熱意がこもります。
農業は「その人を表す鏡」だと評する大野さん。十人十色の畑があり、その人が目指す畑を作ることが農業の醍醐味だと話します。自分が目指す美味しく・安心で・健康的な野菜作りのために、これからも大野さんの成長は止まりません。
※一般社団法人 日本有機農業普及協会が主催する農産物大会のこと。